フラッタ・リンツ・ライフ
6月26日(誤認してました。25日だったらしい(汗) )は、
森博嗣の『スカイ・クロラ』シリーズ最新作の発売日でした。
空色、茜色、灰色ときて、4作目の『フラッタ・リンツ・ライフ』は
何色の雲海で表紙を埋めるのだろう、と期待しながら書店に向かいました。
正解は、紫色。
ジミ・ヘンドリクスのパープルヘイズが、脳内で自動再生されるような紫色。そして、何日かかけて読了し、全く期待を裏切ることのない出来に舌を巻いているところです。
今回のベストシーンは、p78〜79。
戦闘機の格納庫の天井に引っかかった模型飛行機に気づいて取りはずしたクリタが、その飛行機を飛ばそうとプロペラのゴムを巻くところ。「子供の頃は、ちゃんと数を数えてゴムを捲いたのに、どうしてこんないい加減な人間になってしまったのだろう」と思うところから、p79最後の行、「どうして、こんな良い子なんだ?」と思うところまで。
最高に良いシーンです。もちろんそれは、この2ページを引用してみせてもわからないたぐいの——『スカイ・クロラ』シリーズの既刊3冊を読み、この『フラッタ・リンツ・ライフ』を読んで、はじめてしみてくる良さなのです。
……と、言うからには、ちょっとシリーズについて説明しなくてはなりませんね。
『スカイ・クロラ』シリーズは、出版社の解説によれば「戦争を仕事にしなくては生きられない子供たちの寓話」とあります。もちろんそれは正しい説明なのですが、実際に読み進めていくと、じつは「戦争でなければ死ねない子供たちの寓話」でもあると気づかされるのです。
戦争が国家を離れたショーと化し、民間企業が代行して戦闘機による空中戦を行う世界。そこでパイロットとして登用されている子供「キルドレ」は、歳をとりません。時間制限をまぬがれた命を手にしている……というより、背負わされている者たちが選択するのは、殺さなければ殺されるかもしれない戦闘機乗りという職業なのです。
不老の存在が生の実感を感じられるのが、いつ墜とされるともしれない空を飛んでいる時だけだ、というのは、普通人の僕にもなんとなく想像がつきます。それは不死ではない僕らにも、自分が何に傷つくのかを知らない(怖い物知らずな)子供時代があったからだと思います。
恐ろしいものの形を
ノートに描いてみなさい
そこに描けないものが
君たちを殺すだろう(「吹雪」作詞・曲:中島みゆき)
そう、こんな歌もありました。
自分の死の形を死の直前まで知ることができないのは一つの真理です。
たとえば、望むもの全てを当然のように手に入れてきた美しく利発な少女が、たった一度の失恋で自我を崩壊させてしまうようなことも「死」の一種でしょう。
自分自身が「望まれないもの」とされたとき、それまでの彼女にとって人生の「視野外」であり「存在しない場所」だったところに突き落とされてしまうわけです。ほんとうに命を落とすわけではないけれども、人はそれも「死」と呼びます。心の死、社会的な死……死にながら生きてかなければならない死。
そんな「死」の存在を知らずにいられるうちなら、僕らは不死の子供でいられるような気がします。実年齢とはかかわりなく。
『スカイ・クロラ』文中に、キルドレのパイロットが同じ空気を漂わせる者に「怒っているようにも、喜んでいるようにも、見えない。感情がない、感情のスイッチを切っている、そんな様子だ。やっぱり、同じ種族。僕たちは、そういう人間、そういう子供なのだ。でも、仲間に出会えて嬉しい、といった感情でさえ、僕たちにはないのだから、つまり無意味。理屈がさきにあって、その理屈で感情がある振りをする。ずっとそうしてきた、子供のときから。」という場面があります。
もしその描写をまるごと信じるなら、彼には子供時代がない、と言えるでしょう。
僕が思うに、許される限りわがままをつくすのが子供で、たしなめる者がいなくても自分を律する基準を超えないのが大人です。キルドレの感情には生まれながらのリミッターがかかっているようで、つまり彼らは「子供=キルドレ」という呼び名とは逆に、最初から大人なわけです。
ところで本来のリミッターとは、エンジンが回りすぎて壊れないよう、回転数に制限を掛ける装置の名前で、機械にとっては故障せずに空を舞い続けるための実用性をもった装置です。しかし、人間は感情にリミッターをかけたからといって、しがらみだらけの社会を故障せずに泳ぎきれるとは限りません。
そんな複雑な人間関係のなかで、相手の真意が計れず疲れ果ててしまった時など、機械的な「正解のある」明快さに憧れてしまうこともあるでしょう。——そんな時こそ、この『スカイ・クロラ』シリーズのページをめくるタイミングとしてはうってつけかもしれません。
森博嗣『スカイ・クロラ』シリーズ
『スカイ・クロラ』
『ナ・バ・テア』
『ダウン・ツ・ヘヴン』
『フラッタ・リンツ・ライフ』(すべて 中央公論新社 刊)
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コメント
どうも、お久しぶりデス。
…Uゼミ飲みお疲れ様デシタ、とでも言えば正体はお分かりかと。
今日森博嗣サンの本が一冊ダケ地元の本屋の別格に並んでいるのを見ました。
「探偵伯爵と僕」
ゼヒ買ってみようと、裏表紙を見て思いました。
買って損はないと思いますが、森博嗣サンの作品の中でどのくらいの面白さのランクに入るかを聞いておきたいと思いマシテ。
アドバイスよろしくお願いします。。
投稿: デコまる | 2006年7月 6日 (木) 01時34分
オッス! おら(略
な感じで判りました、誰だか。
で……すいません、その本、未読です(汗
おら役立たずだ(;´Д⊂
ちなみに僕のオススメは『すべてがFになる』の犀川&萌絵シリーズ(個人的には、犀川&四季シリーズ、と呼びたいんですが。なので、『F』と最後の『有限と微小のパン』がとくに好き)
それと『スカイ・クロラ』シリーズ。
あと、『ZOKU』ですね。
ZOKUは一冊完結かと思ったら続編が用意されているようで、あのマジメに「壮大なナンセンス」をやるノリが、続編でもちゃんと生きていればいいなぁ、と期待してます。
投稿: 青木KC | 2006年7月 6日 (木) 11時09分