『もてはやされる時代にどのように対処すべきか?』
—結果を見ても始まらない。未知なるものを求めるしかない—
という演題で富野由悠季監督の特別講義があるというので、自分の授業がないのをいいことに、江古田での仕事を午前中でキッチリ上げて所沢校舎に向かいました。
富野さんのキャラとか武勇伝はいろいろ耳にしているので
(きっと地球にコロニー落としそうな勢いで「演説」するんだろうなー
ガンダムのカントクが来るっていうんで教室にもぐった
物見遊山気分の学生はビビるだろうなー)
とワクワクしながら僕ももぐりました。すぐこの枠担当の先生に発見されて、青木先生はむしろスタッフ側でしょ、とプリント配りなど手伝うことになりましたが、そのくらいいくらでも買って出ますよ。トミノ節が好位置でまのあたりにできるなら(あはは)
トミノ節は冒頭から炸裂。
いきなり学生に「この一年で先生からなにか創作の確かな方法論を学べたか?」という趣旨の質問をし、200人教室を埋める学生たちから確かな声が一つも出ないのをみるや
「大人から教えられることなんてなんにもない」
と唐突に絶叫(キター!)
いきなり大学教育全否定\(^o^)/
「フィギュアスケートなんて二十歳前のやつが世界一。ほんとうに才能があるヤツは、いまこんなところで教室に座って人の話を聞いてなんかいない」
いきなり聴衆を愚民扱い\(^o^)/
「ギャラをもらってオリジナルを作る練習ができるのは、当時はロボットアニメだけだった」という話は、なるほどと思いましたね。
よく知られた話ですが、ロボットアニメはスポンサーであるオモチャ屋の言いなりな部分が多々あるわけです。そして、富野さんは「含羞の人」なんですよね。たとえオモチャ屋が関与してきても、アニメ製作者として自分の名前が出る以上、恥ずかしくないものにしたいという気持ちが、結果的にスポンサーと闘いつつ空前の作品を生む原動力になったという流れは、すんなりと飲み込めました。
富野さんが「含羞(はにかむ、恥じらうの意味)の人」だというのは、わざと聴衆をアジるように突然絶叫して、学生たちがちょっと引き気味に静まり返ったあと、普通の口調に戻る瞬間かすかに現れるおもはゆい表情から、ふと僕の頭に浮かんだ言葉です。
富野語録は他でも目にすることができるけど、こういう、その人だけが持つ「間」みたいなものは、やっぱりナマじゃないとわかりません。いやー、来てよかった!
それにしてもコミュニケーション能力ってこういうところにあらわれるんですね。短気ですぐ怒鳴り散らす危ない人と富野さんの決定的な違いは、素早い気持ちの切り替えと、その際、人に対して心のドアをちょっとだけあける「間」と見ました。
これですかね?
数々の危機に潰されず
支持されてきた富野カントクの秘密は!?
……まあ、含羞の人というわりには、90分の講義のあいだ、10回くらい「おまんこ」って叫んでましたけど、そこも偽悪家ぶってるみたいで可愛らしいじゃないですか! むしろ含羞のトッピングみたいなものだと思えば新しい世界はすぐそこですよ
(´∀`) '`,、
「45歳までは君たちも挽回できる。
人間の基本は9歳までの、
当時は解決方法が見えなかった欲求で、
それからは逃れられない。
それが何だったか思いだせ!」
(ちなみに富野さんは「宇宙旅行」と、
そのころ目にしてしまった
「女の人がいじめられてるようなエロ本」だそうで…)
という終盤の富野さんの言葉を反芻しながら帰りの電車に揺られ、9歳の頃の叶わなかった欲求をつらつら思い返して「ああ、ホントそうだわ、オレ、書いてる小説そんなんばっかりだ」と納得しつつ、所沢で乗り換えずに新宿まで買い物に出たので、そこから家路につく電車内で読もうと、紀伊国屋フォレストでマンガを物色しました。前々から「面白い」という声を耳にしていたのもあったけど、日本橋ヨヲコ『G戦場ヘヴンズドア』の帯に
「こいつらの情熱には背筋が凍り付く!
漫画界が怖くて
なんか逃げ出したくなってくるぜ」
なんていう煽り文がついていて
しかもその言葉を寄せたのが島本和彦だった日には、
手に取らずにはいられないでしょう。
昼間の富野さんの熱さが残る手に
この本はものすごくしっくりくるような気がしたのです。
山手線→西武線の車内で読んでいくと、
それは確信に変わりました。
シンクロニシティってのはあるもんだね。
あまりにも出来過ぎてるけど、でもホントなんだよなぁ
人気マンガ家の父親に反発して小説家を目指す町蔵は、 逆にマンガだけを心のよりどころにしている鉄男と 原作+マンガ描きの「戦友」として結びつく。
いよいよ作品を応募する時になって、町蔵は 忌み嫌う父の世界の編集者である、鉄男の父と出会う。 彼から町蔵はこんな言葉を浴びる。
「こう育ったか。かわいそうになぁ。 気づいちゃったんだよなぁ、 誰も生き急げなんて言ってくれないことに」
「見ろよこの青い空 白い雲。 そして楽しい学園生活。 どれもこれも君の野望を ゆっくりと爽やかに打ち砕いてくれることだろう。」
「君にこれから必要なのは絶望と焦燥感。 何も知らずに生きていけたらこんなに楽なことはないのに、 それでも来るか? 君はこっちに。」
日本橋ヨヲコ『G戦場ヘヴンズドア〈1〉』より
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確かにウチ(日芸)も、
アートっぽい雰囲気の中で
充実したキャンパスライフをおくりながら
ナチュラルにじわじわと現実を教えられ、結果的に
芸術家への夢をあきらめさせられる場所だったなぁ…
……と述懐する卒業生が、
きっと数えきれないほどいっぱいいるはずです。
で、そのことを当人たちが悔いてるわけではない。
首根っこをつかむ勢いの富野さんは、
その対極にありましたね。
終盤では「45歳まで挽回のチャンスはある」といいながら
序盤を思い返せば
「もうおまえらは出遅れてる」
「才能があったら今こんなところで時間をつぶしてない」
つまるところ、生き急げ!とアジりまくり。
まさしく
逆襲のシャアのように
いますぐ愚民どもすべてに英知を授ける勢い
でしたよ。
熱かった。
■関連エントリ→「逆襲のシャア」